土曜日
彼は考えていた。
かわらないな。と
一昨日聞いたことはいったん忘れることにしていた。
なにせ今日は彼の小学校の同窓会だった。
辛気臭いことばかり考えていられない。
先生と懐かしい話に花を咲かせ、彼はとても楽しかった。
しかもみんなが変わったようで変わっていないことに彼は少しほっとしていた。
そう、そんな簡単に変われるものではないな。
彼は自分に言い聞かせていたのかも知れない。
金曜日
彼は考えていた。
昨日のショックをまだ忘れられないまま考えていた。
果たしてどっちが多いだろうか?
彼が懸命に考えていたことそれは最近ニホンジンと話す機会とガイコクジンと話す機会どっちが多いだろうか?ということだった。
もちろん見渡せばこの狭く広い列島にはニホンジンが圧倒的に多い。しかし大学ではすでに別々に授業をとるようになり、友達と話す機会は減っていたし、サークルでは圧倒的にガイコクジンが多い。
加えバイトでは大抵チュウゴクジンやカンコクジンと仕事をしているので、彼は本気でそう思ってしまったのだ。
しかしやっぱり思う。ガイコクジン全てとは言わないがニホンが好きで来てくれているガイコクジンは本当にいい人が多い。
彼は感動していた。
木曜日
彼は考えていた。
これは現実だろうか?
彼がバイト先で聞いた言葉はにわかに信じがたい言葉だった。
もう一度問う。
これは現実だろうか?
単純にショックだった。
水曜日
ごめんなさい。
この二週間忘れたことはありません。反省してます。
ごめんなさい。
火曜日
彼は考えていた。
なんたって長い実験なんだい!?
教授は同じ説明を2時間かけて説明した後、じゃあはじめてくださいと言ってとっととどっかに消えていった。
残された彼とその仲間は扇風機を回した。
熱かったからではない。(いや正確に言えば熱かった。)
扇風機の前には上下をバネにつられた奇妙な円柱があった。
これに風をあて変化を見る。
そんな単純な作業を2時間かけて説明させた彼らはさすがに苛立っていた。
しかも装置は10分待ってもたいした変化は見られなかった。
しかも彼らの大抵はそれが当然であるかのように前日の夜に徹夜をしており、少し光が混じった?その装置をなにか心無い瞳で見つめているのだった。
結局装置はたいして変化のないまま実験は終わった。
彼は思った。
これが現実さ。
月曜日
彼は考えていた。
帰り道2車線の国道はいつものように混んでいた。
バイトまでは少し時間があった。
彼は少し寄り道をしてみたくなった。
彼は思いつきで行動するのが好きだった。
ふとラーメンが食べたくなった。
ラーメンなんてほぼ毎日見ている。
そして3日にいっぺんは食べてるのにだ。
いやだからこそ他のラーメンが食べたかったのかもしれない。
彼は国道を外れ裏道に入った。
もちろん国道にもラーメン屋はあったが、あえて隠れ家的なところで食べてみたかったのだ。
いくつかのラーメン屋を迷いながら通り過ぎたとき、前にとんこつラーメンを売りにしているラーメン屋が見えた。
あいにく駐車場がなかったが、彼はなぜかこの店のなんともいえない雰囲気にひかれた。
近くのスーパーに車を止めると、少し迷った挙句思い切って入ってみた。
中は外から見たとおり狭く、客は少なく、女の人一人でラーメンを作っていた。
しかし彼はニヤリと例の笑い方をした。
これが彼の望んでいるものだったのだ。
彼は3つあいていたカウンター席の真ん中に座ると、とんこつラーメンとねぎを注文した。
程なくしてラーメンは出てきた。普通のラーメン皿より平らな変わった形の皿に盛られたとんこつラーメンにねぎが盛られている。
いい香りだ。とんこつにしては色がけっこう濃く、だしにたぶん特殊な物を使っていることがうかがえた。
そして彼は一口食べて思う。
うまい。
麺はけっこう太めな縮れ麺でチャーシューとわかめのトッピングがまた旨いと彼は感じていた。
時間はけっこうなかったのだが彼はゆっくりとそのラーメンを食べ続けた。
いいところを見つけた。彼はそう思った。
そうまるで草原にあるゆりかごのようだった。
日曜日
彼は考えていた。
なぜだ?
いや確かに日曜日は混む。
しかしこれは混みすぎだ。
いつもは昼の1時ぐらいでなくなるはずの、店の前の軽い行列は、なぜか3時近くなっても途切れなかった。
彼はすでに虫の息だった。
さっきチラッと見たカレンダーによると今日は父の日らしい
だからだろうか?彼はもはやよくわからないところに納得しようとしていた。
仕事が終わった瞬間。彼は休憩室に倒れこんだ。
「ゆりかごのある丘から」を流す。
そこには変わらぬ草原があった。